健康コラム

no.87
テーマ:「睡眠」
2014年5月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

新緑の美しい季節となりました。

進学や就職、異動、転居など新たな環境で4月をスタートされた方も多いかと思います。

そろそろ、新しい環境にも慣れてくる頃ですが、
「気分が重い」「疲れがとれない」「寝つきがわるい」「もしかして5月病かも・・・」なんて感じていませんか。

健康の基本は、「食事・運動・睡眠」です。

その中でも今回は『睡眠』に注目します。
【1】睡眠に種類がある?!
睡眠には、異なる性質をもつ「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があります。

2つの睡眠の特徴として、下記の点が挙げられます。

【レム睡眠】
・眠っていても眼球が動く、急速眼球運動(REM:rapid eye movement)が見られる
・体は休んでいても、間脳、中脳などは起きている
・眠りが浅く、夢を見ることが多い
・情報の整理や記憶の定着などが脳で行なわれる

【ノンレム睡眠】
・レム睡眠のような眼球の動きは見られない
・生命維持に必要な拍動や呼吸など、最低限の機能のみが活動している
・眠りが深く、ほとんど夢を見ることはない
・様々なホルモンが分泌される

レム睡眠は、“体を休ませる睡眠”で、ノンレム睡眠は、“脳を休ませる睡眠”ともいわれます。

私たちの睡眠は、この2つの睡眠で構成されていて眠りにつくと、まず深い眠りのノンレム睡眠があらわれ、次に浅い眠りのレム睡眠へと移行します。

レム睡眠とノンレム睡眠は、約90分の間に交互にあらわれ、これが一晩の睡眠の中で何度か繰り返されています。

そして、朝になれば目が覚め、活動をはじめますが、眠りの浅くなったレム睡眠の時に起きることができれば、スッキリと目覚めることができます。
【2】眠くなるしくみ
私たちは、毎日、覚醒(起きている状態)と睡眠(眠っている状態)を繰り返しています。

では、なぜ、夜になると眠くなるのでしょうか。
これには、2つのしくみが関係しています。

まず、「ホメオスタシス(生体恒常性)」です。

「ホメオスタシス」とは、私たちの体に備わっている体内環境を一定の状態に保とうとする働きのことです。

忙しかった日や、寝不足続きの日は、眠気が一段と強まります。
“疲れると眠くなる”のは、体(脳)が疲労や睡眠不足を感じると、睡眠によって体や脳を休め、回復をはかろうするしくみが働くためです。

一方、前日の睡眠が十分で、それほど疲れていなくても、ある一定の時刻になれば、私たちは自然と眠くなります。

これには「体内時計」が関わっています。
睡眠や覚醒、体温、血圧、代謝、ホルモンの分泌、免疫機能など体内の様々な機能は、「体内時計」によって約1日の決まったリズムで調節されています。

特に「体内時計」の睡眠と覚醒の調節には、睡眠を誘発する作用を持つ「メラトニン」と呼ばれるホルモンが密接に関係しています。

本来は25時間周期の「体内時計」ですが、朝日を浴びることで24時間にリセットされます。

また、朝日を浴びて約14時間後から再び「メラトニン」の分泌がはじまり、「体内時計」は、徐々に眠くなるように設定されています。

私たちが意識していなくても、“夜になると眠くなる”のは、「メラトニン」が「体内時計」に働きかけ、夜には休息状態に切りかわるしくみがあるからです。

このように、私たちの体は「ホメオスタシス」と「体内時計」の2つのしくみによって、眠くなるようになっているのです。

ところが、平成23年(2011年)の国民健康・栄養調査によると、ここ1ヶ月間で、寝床に入っても寝つきが悪い、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、熟睡できないなど、
眠れないことが「頻繁にあった」人の割合は、男性が13.2%、女性で13.6%。眠れないことが「ときどきあった」人と合わせると、男女ともに約半数以上を占め、快適な睡眠を得られていないことが伺えます。
【3】快眠のススメ
なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めるなど、
不眠をはじめとする睡眠に何らかの問題がある状態を総称して「睡眠障害」といいます。

睡眠障害には様々なものがあり、その症状や原因も人によって異なり、多岐にわたります。

一般的に、心理的原因(ストレスなど)、身体的原因(外傷、湿疹、頻尿、花粉症といった病気や症状など)、生活習慣・環境の問題(時差ボケや夜勤など)、精神面の疾患(神経症やうつ病など)、薬の服用などがいわれ、メラトニンの分泌不足もその一因として指摘されています。

メラトニンの分泌量は、光によって左右され、明るいと少なくなり、暗いと多くなります。
また、年齢を重ねるほど減少してくることも知られています。

メラトニンの分泌を良くするには、朝日を浴び、規則正しい生活を送ること、就寝前には明るい光を浴びないこと、メラトニンの材料となる栄養素を含む食事(食品)を摂ることなどが挙げられます。

食事では、アミノ酸のトリプトファンを含む良質のたんぱく質(魚・肉・卵・大豆・大豆製品など)や、ビタミンB6(まぐろの赤身・かつお・さんま・大豆・納豆・バナナなど)、ナイアシン(まぐろの赤身・鶏ささみ・落花生・玄米ごはん・干しいたけなど)、マグネシウム(ナッツ類・ひじき・大豆・納豆・生カキなど)を積極的に取り入れることがポイントです。

メラトニンそのものを含む食品には、白菜やキャベツ、ケールなどの葉野菜があります。

そこでおすすめは、昔ながらの和食です。

例えば、朝食。典型的な日本の朝食といえば、玄米ごはん、味噌汁、焼き魚、ぬか漬けなどです。
特に昔ながらの日本の朝食には、上記の栄養素がバランス良く含まれています。

玄米ごはんには、ビタミンB6、ナイアシン、トリプトファンが、
味噌汁の味噌は大豆からできているため、トリプトファンが、
焼き魚には、トリプトファンやマグネシウム、ビタミンB6が、
ぬか漬けには、ビタミンB6やナイアシンがそれぞれ含まれています。

睡眠に良いからといって、穀類だけ、豆類だけ、野菜だけを食べるのではなく、色々な食品を組み合わせてバランス良く摂ることが大切です。

また、生活上のちょっとした工夫がメラトニンの分泌を高め、快適な睡眠を助けてくれます。

※ご注意※
多くの睡眠障害では正しい診断と治療が必要です。
生活上の工夫を行っても不眠が続く場合には、医療機関を受診されることをおすすめします。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
厚生労働省によって、眠りの質の向上を目的として2003年(平成15年)に策定された「睡眠指針」が11年ぶりに改定されるそうです。

それぞれ世代別の特徴に応じて、良い眠りのための新たなアドバイスが盛り込まれる予定です。

スマートフォンの普及から、中高生など10代の若年世代に対しては、就寝前の携帯電話の使用が夜型の生活を加速させるとして、注意を促すようです。

就寝前の携帯電話の長時間の使用は、夜型の生活を助長させるだけでなく、体内時計のリズムを狂わせる上、強い明るい光によってメラトニンの分泌も阻害してしまいます。

携帯電話の使用はほどほどに。爽やかな季節を元気に楽しく過ごすため、快眠、大切ですね。
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