健康コラム

no.92
テーマ:「醤油」
2014年10月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

今日、10月1日は、“醤油の日”だそうです。

昔の日本では、寒い冬を乗り切るために、秋に収穫した農作物を貯蔵・加工し、備蓄していました。

そして、醤油づくりも、実りの秋のちょうど今頃に新大豆を使って行なわれていました。

今回は、その「醤油」についてお届けします。
【1】醤油の原料
醤油の原料といえば、大豆が有名ですが、実は、小麦も使われています。

基本となる原料は、大豆、小麦、塩です。

大豆は“畑の肉”と呼ばれるほどたんぱく質に富み、小麦はでんぷんを多く含んでいます。

では、どのようにして醤油はできるのでしょうか。
醤油の約8割は「本醸造方式」という製造方法でつくられています。

どのような製造方法かというと、まず、大豆は蒸して、小麦は炒って砕きます。

そして、それらを混ぜ合わせ、種麹[*1]を加えて、麹(こうじ)[*2]をつくります。できた麹に食塩水を加えると、諸味(もろみ)といって、見た目が水分の多い味噌のようなものができます。

これを大きな桶やタンクの中で6ヶ月以上かけて発酵・熟成させ、その後、諸味を搾って液体の部分を取り出します。

取り出した液体が醤油になる部分で、余分な発酵や熟成が進まないように、また、殺菌のために熱を加えれば完成です。

製造方法を簡潔にまとめると、文章は短くなりますが、醤油づくりには長い年月がかかっています。

発酵・熟成の間には、麹の酵素や乳酸菌、酵母の働きによってたんぱく質はアミノ酸に、でんぷんはブドウ糖へと分解され、長い時間を経て、アミノ酸は醤油特有のうま味や色の成分となります。
そして、ブドウ糖は香りをつくり出します。

[*1]:食品の発酵に関わるカビの一種、麹カビもしくは麹菌という
[*2]:米、麦、大豆などの穀類に麹カビ(麹菌)を繁殖させたもの
【2】醤油の種類
醤油には様々なわけ方がありますが、JAS(日本農林規格)の分類では、「濃口」「淡口」「溜り」「再仕込み」「白」と醤油の特徴によって5種類に分類されています。

■濃口(こいくち)醤油
醤油が発達した江戸時代には多くの魚が獲れました。
関西で獲れる白身魚とは異なり、関東では青魚やクセの強い魚が多かったため、その“臭み消し”の役割として香りの強い濃口醤油が好まれたといいます。

通常“醤油”というと濃口醤油を指し、生産量の8割以上を占めています。

濃口醤油は、色、味、香りのバランスにすぐれていて、どんな料理や素材にも合うため、幅広く使われ、もっとも一般的な醤油といえます。
 
■淡口(うすくち)醤油
濃口醤油に比べ、色がうすい醤油です。
また、塩分濃度が濃口醤油(約16~18%)より淡口醤油(約18~19%)の方が1割ほど高めです。

炊き合わせ、含め煮といった素材の色を活かした料理や、お吸い物などに用いられます。

■溜り(たまり)醤油 
とろみがあり、濃厚なコクと独特な香りをもつ、色の濃い醤油です。

濃口醤油や淡口醤油の原料は、大豆と小麦の比率が1:1なのに対して、溜り醤油の原料は、ほとんどが大豆です。

刺身などのつけ醤油に使われる他、加熱すると赤みがかったきれいな色が出るため、“照り”“コク”を出したい照り焼きや煮物といった料理に使われます。

■再仕込み(さいしこみ)醤油
濃口醤油と比べ、色、味、香りのどれもが濃厚な醤油です。

漢字で“再仕込み”と書くように、醤油を2度醸造するような製法でつくられます。

「甘露醤油」や「さしみ醤油」ともいわれ、刺身のつけ醤油や冷奴などのかけ醤油として用いられる他、料理のかくし味としても使われます。

■白(しろ)醤油
淡口醤油よりさらに色のうすい醤油です。

原料のほとんどが小麦で、大豆の使用量は少量です。
小麦が多く使われているため、糖分が高いという特徴があります。

色のうすさを活かした茶碗蒸しやお吸い物などの料理に適しています。
【3】醤油の効果
醤油は、和食はもちろんのこと、様々な料理に使われています。

材料の下ごしらえに、料理の味つけや仕上げにと醤油をちょっと加えるだけで、料理にうま味と独特の香りが広がります。
そこには、醤油の驚くべきパワーが存在するのです。

◆消臭効果
醤油に含まれるメチオノールという成分には、臭いを吸着し、臭みを消す働きがあります。
刺身に醤油をつけて食べるのは、味つけだけでなく、生臭みを消すためでもあります。

また、下ごしらえにある「醤油洗い[*3]」という方法は、醤油の消臭効果を利用しています。

◆殺菌(静菌)効果
総合的に作用し合って、大腸菌の増殖を抑えたり、死滅させる働きがあることが知られています。
この殺菌(静菌)効果を利用して、日持ちを良くしたものが、醤油づけや佃煮などです。

◆加熱効果
醤油は熱が加わると、香ばしい香りを放ちます。
すき焼き、照り焼き、焼き鳥など、あの食欲をそそる香りです。

これは、醤油に含まれるアミノ酸と砂糖やみりんなどに含まれる糖分の反応(アミノカルボニル反応)によるものです。
この反応によって香りの成分が生まれ、褐色色素の作用で“照り”も出ます。

◆相乗効果
うま味の成分としてグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸が有名です。
これらは醤油のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸というように組み合わせることで、単独で使うよりも両方のうま味が飛躍的に強くなります。

このような効果は「味の相乗効果」といわれます。
めんつゆや天つゆ、煮物などがその一例です。

◆対比効果
ある味に対して異なる味を少量加えることによって、もとの味が強まったように感じられる効果を「対比効果」といいます。

例えば、甘い煮豆の仕上げに少量の醤油を加えると煮豆の甘さが際立ちます。
すいかに塩をかけたり、お汁粉に塩を入れて食べると、甘味が増したように感じるのと同じ原理です。

◆抑制効果
対比効果とは逆で、異なる味を加えることで、もとの味を抑える効果を「抑制効果」といいます。醤油には塩味をやわらげる作用があります。

例えば、つけすぎてしまった漬物に醤油をかけると、醤油に含まれる乳酸などによって、塩辛さがマイルドになります。

[*3]:材料に醤油を少量かけたあと、しぼって余分な水分を切ること。主に、青菜などの野菜で用いられる。
また、魚介類や肉の生臭みをとり、下味をつけるためにも行う
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
母から子へ受け継がれていく家庭の味に、醤油は欠かせません。

「この料理の海老は、ほんの少し醤油を垂らしてから使うのよ」なんて母から教わった料理の手順。
その手順には、消臭という醤油を使うちゃんとした目的があって、理にかなっていたんだなと、今になってつくづく感心します。

今や、万能調味料として「ソイ・ソース(soy sauce)」の名で世界中で親しまれている醤油。
少々大げさな表現になるかもしれませんが、醤油は継承され、世界中で親しまれるだけの美味しさと様々な効果を兼ねそなえているのです。

そんな醤油をさらに美味しく味わうためには、保存方法もポイントです。
醤油は時間の経過とともに色が濃くなり、風味も落ちてしまいます。
本来の美味しさを味わうためにも、開栓後はきちんと栓をして冷蔵庫で保管、早めに使い切りましょう。
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