健康コラム

no.156
テーマ:「ニオイ」
2020年2月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

少し過ぎてしまいましたが、2月1日はニオイの日です。

ニオイと一口に言っても、一言では語り切れないテーマではございますが、
今回は、ニオイと味の関係や、人にとって必要不可欠な嗅覚についても、面白く掘り下げていきたいと思います。
【1】人が料理を味わうときは嗅覚が8割・味覚が2割
味の感覚の8割は嗅覚、つまりニオイで認識しているそうです。

それを結論付けるのは、味覚と嗅覚を認識する場所である受容体とよばれる部分の数だといわれています。

まず、味覚受容体は、33種類あります。

これに対して、嗅覚受容体は、400種類もあります。

これら、味覚と嗅覚の受容体で感じた情報が脳内で統合され“味”として認識します。

そのため、全く同じ味覚受容体を刺激する料理でも、嗅覚情報を少し変えることで味の感じ方が変わってくるのです。

また、興味深いのが、味覚は、甘味・旨味・塩味を好み、酸味・苦味を嫌うというように、先天的に味覚情報の好き嫌いが決まっていますが、嗅覚は後天的に、味覚との連動学習で好き嫌いを判断していくということです。

このことから、「美味しい」や「不味い」と感じる味の情報を決定付けているのは、嗅覚といっても過言ではないのです。
【2】ニオイの感じ方は2種類
ニオイを感じる経路は2種類存在します。

1つは、直接鼻から入る香りである“たち香”、もう1つは、喉の奥からのぼる香りの“あと香”です。

料理の嗅覚情報の8割を決めるのは、後者である“あと香”といわれています。

料理を味わうときを順序立ててみてみましょう。
まず、鼻先から入ってくる“たち香”の嗅覚情報を認識します。

次に、口に含むことで口から鼻にぬける“あと香”の嗅覚情報を認識します。

この2つの経路の嗅覚受容体までの距離が短いのは、“あと香”です。
そのため、“あと香”の方が早く嗅覚情報を感知します。

また、口に含む“あと香”は、鼻から入る“たち香”のように空気中にニオイが拡散することがないため、大量のニオイ物質が嗅覚受容体まで届き、印象に残りやすくなります。

その上、ニオイ物質は、温度上昇により気化しやすいという特徴があります。
食べた物が口内で温度上昇することで、“あと香”の方がニオイ物質を気化しやすく、より多く嗅覚受容体に届くわけです。

そして、“あと香”からのニオイを感じ、楽しむことができるのは人だけなのです。

イヌは“たち香”を受容する能力にすぐれていますが、“あと香”を感じることが出来ません。
しかし、人は食物を口に入れることで、“たち香”だけでなく“あと香”も受容できます。
そのため、より繊細に嗅覚情報が嗅覚受容体に届けられます。

ソムリエがワインのわずかな違いから、ブドウの品種、産地、製法などを言い当てることからも、その恩恵は計り知れないといえるでしょう。
【3】人にとって嗅覚は偉大なもの
五感のうち、嗅覚はそれ以外の4つの感覚、“視覚・聴覚・触覚・味覚”と脳内での情報伝達経路が異なるといわれております。

嗅覚以外の視覚・聴覚・触覚・味覚は理性的な思考を司る大脳新皮質に伝達されるため、理性が先に働きます。

それに対して、嗅覚は、五感の中で唯一、感情・本能や記憶を司る海馬が存在する大脳辺縁系に伝達されるため、直接本能に作用します。

この違いにより、嫌なニオイと感じると、そのニオイを理屈を抜きに嫌いになってしまったり、あるニオイで昔の出来事を思い出したりします。
これは、リアルな感情を伴った追体験、“プルースト効果”のきっかけともなるのです。

さて、この嗅覚、やはり老化とともに低下するといわれていますが、その他の運動機能などと比べると、低下するタイミングや速度に違いがあるようです。

嗅覚は、30歳代がピークと言われておりますが、60歳代までは衰えが少ないという報告があり、更に年齢と共に様々なものに触れてきた経験によって、若年層より、香りの識別能力が高いこともあるようです。
嗅覚の寿命は長いといえそうですね。

ニオイは日常生活の中で、当たり前の存在ですが、嗅覚能力が失われたときの5年死亡率は、ガンや心筋梗塞、糖尿病などの疾病に比べて高く、人々の感情にも大きな影響を与えることが報告されています。

嗅覚がどれだけ大切か、その偉大さに気付かされますね。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
先ほどご説明した、“プルースト効果”について、有効活用できる場面があります。

それは、受験や資格などの勉強時です。

上記でご説明した通り、認知した嗅覚情報は、一時的に過去2年間くらいの短期記憶として、大脳辺縁系に存在する海馬に蓄積されます。
その後、海馬を通じて大脳新皮質に転送され、長期記憶として固定化されます。

このことから、受験など何かを記憶する必要があるときに、特定のニオイを嗅いでおくと、思い出したいときに再び嗅ぐことで、そのニオイと結びついた記憶を引き出す手助けをしてくれるといわれています。

その他、認知症の方に、懐かしい思い出と結びついたニオイを嗅いでもらったところ、それまでは全く思い出せなかった家族のことなどを思い出したという症例が数多く報告されているそうです。

ニオイは記憶と密接に結びついていることがわかりますね。

私自身の食べ物のニオイの思い出は、祖父母の家の庭で栽培されていた青じそです。
当時は、その青じそを使って、祖母がよく鶏天を作ってくれました。
今でも青じそのニオイを嗅ぐと、それを思い出します。

今回の健康コラム作成時にその理由に納得しつつ、久しぶりに青じその鶏天を作ってみたいと思います!
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