健康コラム

no.180
テーマ:「プラントベース」
2022年2月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

最近“SDGs(エスディージーズ)”という言葉をよく耳にするようになりました。

これは“Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)”の略称で、簡単に言うと「世界中にある差別・貧困・人権問題などの課題を世界で2030年までに解決していこう」という計画・目標のことです。

2015年の国連サミットで採択され、日本を含む193の国が達成に向けて取り組んでいます。

これまで健康コラムで紹介した「昆虫食」や「食品ロス」、「ゲノム編集食品」もSDGsの目標達成に関わるテーマでもあります。

今回取り上げる「プラントベース」もそのひとつ。
はじめて聞いたという方もこれを機会に是非覚えてみてください。
【1】プラントベースとは?
「プラントベース」とは植物を意味する“plant”と由来を意味する“base”とを組み合わせた言葉で、植物由来の原材料から作られた食品(※1)またはそれらを積極的に取り入れた食生活のことを指します。

ヴィーガン(※2)やベジタリアン(※3)と混同されやすいのですが、実は違うものです。

ヴィーガンやベジタリアンは主に「動物由来の食品をなるべく又は完全に排除した食生活」を送る方を指しますが、プラントベースは肉・魚・卵などを食べるのもOK。

ヴィーガンやベジタリアンほど厳格な決まりはないので、誰でも気軽に取り入れやすいところがメリットです。


※1:「プラントベースフード」とも呼称

※2:動物由来の食品を一切食べず、動物に由来する物・道具も一切使用しない主義の方

※3:肉や魚などの動物由来の食品を食べず、植物由来の食品を中心にとる方
【2】なぜ今、プラントベース?
「プラントベース」が注目されている理由としては、2つあります。

1つ目は生活習慣病のリスク低下など、健康上のメリットから。

2つ目は地球環境の保護・食糧問題の解決にも役立つ食生活だと考えられているからです。

畜産業は家畜の排せつ物やそれらの処理が適切に行われないことで起こる温室効果ガスの排出や、水質汚染などが問題視されていました。

さらに、将来的には人口増加による動物性たんぱく質の不足も指摘されていることから、植物由来の食品へのシフトが負荷の軽減につながると期待されています。

欧米に比べるとまだまだ浸透しているとは言えませんが、少しずつスーパーやコンビニでも「プラントベースフード」が並びつつあります。

代表的なものには大豆から作られた大豆ミート(大豆肉)があり、レトルトタイプ・乾燥タイプ・冷凍タイプ、形状もミンチ・フィレ・ブロックと種類も豊富です。

温めるだけで食べられる調理済みのレトルト(カレー・パスタソース・ハンバーグなど)もあるので、まず試してみたいという方にはこちらがおすすめです。

食糧問題については「昆虫食」の【1】なぜ今、昆虫食?もご参考ください。
【3】植物性たんぱく質をとるメリット
「植物性たんぱく質を多くとるとどうなるんだろう?」と考えていたところ、興味深い論文を見つけました。

国立がん研究センターの報告(※)によると動物性・植物性たんぱく質の摂取量とその後の死亡リスクとの関連を調べた研究において「植物性たんぱく質の摂取割合が多いほど死亡リスクが低い」ことが報告されています。

また、「総エネルギーに対する3%を、赤肉・加工肉から植物性たんぱく質に置き換えると、総死亡リスクが39%、がん死亡リスクが46%、循環器死亡リスクが50%下がる。」ことも分かりました。

総エネルギー量の3%の置き換えとはどれくらいかを考えると…。

たとえば60歳の女性(身体活動レベル普通)では1日のエネルギー必要量は1,950kcalですので、3%は58.5kcalに当たります。

これをたんぱく質量に置き換えると約15g、大体1食分のたんぱく質(あいびき肉、鶏もも肉(皮なし)、豚ロースなど約80g)に相当します。

イメージするとしたら片手にのるくらいの量でしょうか。

とは言え、「1食のおかずを全て植物由来の食品にしよう」とするとなかなか難しいですよね。

興味がある方におすすめなのが「混ぜてかさ増しする」方法です。

例えばひき肉を使った料理の肉だねにおからや豆腐、高野豆腐パウダーを混ぜれば、お肉の量を抑えつつ、植物性のたんぱく質もしっかりとれます!
また、牛乳の代わりに豆乳を使ったり、混ぜても美味しいそうですよ。

肉に比べると大豆製品は安く手に入ることが多いので、お財布に優しいのも嬉しいですね。


※国立研究開発法人 国立がん研究センター
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
大学時代、乾燥タイプの大豆ミートの活用に取り組まれていた研究室があり、実物を見せていただいたり、調理して食べた時の感想などを聞くことがありました。

「結構臭みがあるから、調理方法は工夫しないとダメみたい」「そのままお肉の代わりになるっていう感じではない」などの話から、私たちの普段の生活で身近になるのはまだ先のことかな~と思っていました。

最近、実家で「これ食べてみて」と出されたのは一見普通のチキンナゲット。
…で、実際は大豆ミートで出来た大豆ナゲットでした。

ホットプレートで焼いて食べたのですが、味にクセもなく、食感も言われなければ大豆だと分からないほど!

減塩食品を調べていた時にも感じましたが、技術の進歩はめざましいですね…。

コラムに取り上げるまで、店先でプラントベースのメニューを見かけて「最近増えてきてるな~」と思う程度の認識でしたが、親世代が購入して食べているのを見ると「結構浸透してきてるのかも」と感じます。

これからもこうした新しい言葉や取り組みに注目していきたいと思います。
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