健康コラム

no.38
テーマ:「脳」
2010年4月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

どこに何をしまったか忘れた。
何を食べたのかが思い出せない。
とっさに漢字が書けない。
あの人誰だったっけ?
日常会話にアレやソレなどの言葉が増えた。
などなど・・・

日常生活の端々で記憶力や思考力の低下を実感することはありませんか?
ふと「若年性認知症」なんて言葉が頭をよぎります。
今日は、物忘れと深く関係している「脳」に関するお話です。
【1】物忘れと認知症、脳の働きを低下させるのは?
年齢を重ねると、どうしても多少の物忘れは出てきます。

この物忘れは、加齢に伴う生理的な変化によるものであり、単なる物忘れは、いわゆる「認知症」とは異なります。

認知症は物を忘れる病気と思われがちですが、物忘れは、人の名前が出てこなくなるなど、加齢によって記憶が衰えることをいいます。

記憶は残っているため、一時的に思い出せなくても別の機会に記憶がよみがえることがあります。

一方、認知症は記憶そのものを失っているので、昔会った人の写真を見せても知らない人としか認識できません。

物忘れは、加齢に伴う生理的な現象。

「歳だから仕方ない」なんて理由をつけて何の対策も行わないのも考えものです。

特に私たちの生活は快適で便利になりすぎて頭を使わずに済む一方で、過剰な効率化や情報過多による、過度のストレス。

肉体だけでなく脳への負担も増える一方です。

脳は筋肉と同じで、使わなければ衰えます。

逆に使い過ぎても上手く働かなくなります。

脳を働きを低下させる原因には、

①快適・便利すぎる生活
脳の神経細胞は20歳をすぎると減少してくるために、神経細胞の情報伝達のスピードも落ちてきます。

②不規則な生活習慣
特に睡眠は、体の疲労回復だけでなく、脳に入った情報を整理し、記憶として定着させるための大切な時間です。
睡眠不足は記憶力の低下につながります。

③活性酸素によるダメージ
脳は他の臓器と比べ、大量の酸素を必要とし、紫外線や、喫煙、排気ガス、ストレスなどによって活性酸素が発生しやすく、そのダメージを受けやすい器官です。

④ストレスによるダメージ
ストレスは活性酸素を発生させるばかりでなく、脳内の情報伝達を行う神経伝達物質(アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニンなど)の働きにも深く関わっています。
神経伝達物質の働きが低下すれば、精神的に不安定になり、集中力も散漫に。脳にもよくない影響を及ぼしますので、物忘れにもつながってしまいます。
脳を活性化させ、老化予防すると同時に、脳をいたわり、リフレッシュさせ、いつまでも健康な脳をキープすることがとても大切です。

【ご注意】認知症は早期発見が大切です。
気になられる症状がある場合には、早めに医療機関へご相談下さい。
【2】脳がよろこぶ食べ物(栄養素)
脳の重さは全体重の約2%程度しかありませんが、消費するエネルギーは、全身のエネルギーの約18~20%に相当します。

脳がよろこぶ食べ物(栄養素)は、健康維持と同じく、炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、5大栄養素を過不足なく摂ることです。

その中でも下記の栄養素は脳の働きと密接な関係があります。

■炭水化物(糖質):ご飯、パン、めん、いも類、果物など 
・ブドウ糖
...脳のエネルギー源は、炭水化物(糖質)が分解してできるブドウ糖だけです。
脳にブドウ糖を蓄えておくことはできませんので、定期的に脳に供給される必要があります。

■たんぱく質:魚介類、肉類、卵、大豆製品など

■脂質   :油脂、肉、魚介類、嗜好品など 
・EPA(エイコサペンタエン酸)
・DHA(ドコサヘキサエン酸)...背の青い魚に多く含まれる栄養素(脂肪酸)です。
脳の海馬という部位は記憶を司り、20%以上のDHAが含まれていて、記憶力や理解力などの向上や脳内の情報伝達をスムーズに行うために働きます。
・レシチンやチロシン
...大豆食品(大豆、豆腐、納豆、おからなど)に含まれる栄養素で、レシチンには、脳を活性化する働きがあり、チロシンには、神経伝達物質の分泌を高める作用があります。

■ビタミン
・ビタミンC :野菜や果物、いも類など
・ビタミンE :アーモンド、ゴマなどの種実類、アボガド、カボチャなど
・β-カロテン:緑黄色野菜、うなぎ、鶏や豚のレバーなど
ビタミンC、ビタミンE、β-カロテンは、抗酸化力の強い栄養素で、活性酸素の除去に役立ちます。
・ビタミンB6:マグロの赤身、サンマ、カツオ、鶏ささみ、バナナなど
・ビタミンB12:鶏レバー、サンマ、カキ、あさりなど
・葉酸    :モロヘイヤ、ほうれん草、菜の花など
ビタミンB群(ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸など)は、神経伝達物質の合成や、精神状態と深く関わる栄養素です。
  
 
■ミネラル
・カルシウム:小魚、海藻類、大豆、大豆製品、乳製品など
イライラを抑えて、神経や感情をコントロールし、安定させる働きがあります。

・亜鉛:カキ、牛肩ロース、豚レバーなど
記憶を司る海馬が正しく働くために必要な栄養素です。
神経伝達物質の合成や、体内の様々な働きを行う酵素の働きに欠かせません。
 
 
+α
□特に和食には、脳の働きと密接な関係のある炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルがそろっていて、脳の健康維持にも最適です。

□ほめられることでも、脳は喜びます。
 脳に良いのは「何かを計画し、実行し、評価をもらう」というプロセス。
 これを全て体験できるのが、料理です。
 
献立を決めて、材料や手順を想定し、栄養バランスや彩りを工夫し、作り、「おいしい」と評価させることで、脳の広い範囲が刺激されます。
【3】脳がよろこぶ生活習慣
声を出す、言葉を使う、指先を使う、という日常の動作は、実は脳の高度な機能によってなされており、脳が喜ぶ行動は、身近な生活の中にあります。

■適度な運動、規則正しい生活、十分な睡眠
運動を行うと、神経細胞間での情報の行き来が活発になり、脳が活性化します。
さらに、全身の血液循環が良くなるため、脳へも十分な血液が行き渡り、脳の血管の詰まりの原因となる生活習慣病の予防にもなります。
歩くことや自転車など、無理せず、続けられそうなことからはじめてみましょう。

脳に入った情報を整理するためには、十分な睡眠が欠かせません。
睡眠不足や、昼夜逆転の生活は、心身の病気の原因にもなるので注意が必要です。
朝の光には、体内時計を調整する働きがあります。
就寝時間にバラつきがあっても、起床時間だけでも一定にしましょう。

■人との交流を楽しみ、いきいきした毎日を
脳の大脳皮質の前頭葉という部分は、思考や判断を司ります。
この部分が衰えると、物忘れや判断力が鈍ってきます。
言葉で自分の考えを表現したり、相手の考えを理解したり、気配りしたりと、コミュニケーションは、前頭葉を非常に効率よく刺激してくれる行為です。

家族団らんや地域の集まりへの参加、趣味やスポーツを楽しむなど、充実したメリハリのある毎日を過ごすことは、脳を刺激し、活性化させる得策です。

■手軽な趣味で手先を動かす
趣味を持ち、気分転換を図ることは、コミュニケーションと同様に、日々蓄積されるストレスの解消に効果的です。
ずっと続けられるよう、準備が簡単な、編み物、手芸、工芸など、好きなことからはじめてみましょう。

■いい香りをかぐ
香りは、脳に直接作用し、心身の安定に効果的とされています。
エッセンシャルオイルをアロマポットで炊いたり、水で薄めてルームスプレーにしたり、塩と混ぜてバスソルト(塩大さじ1に対しエッセンシャルオイル数滴)にしてお風呂に入れるなど、お好みの方法で楽しんでみてはいかがでしょうか。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
何かの雑誌で“ビジネスパーソンは奥深い記憶力、豊かな発想力、素早い判断力、「ブレインパワー」高めていく余地は、誰にでもある”というようなキャッチコピーを目にしました。

「脳科学」「脳トレ」「ブレインフード」など『脳』に関連する話題をよく見かけます。

私たちの脳は常に血液(非常に多くの栄養と酸素)が必要とされ、その血流量は、心臓から送られる血液の約20%にもなり、脳への血流が約10秒間途絶えただけでも、私たちは意識を失ってしまいます。

酸素不足、異常な低血糖状態は、脳の機能に数分以内に異常を来たしますが、体のメカニズムによって、脳はこれらの非常事態から守られています。

例えば、脳への血流が減少した場合には、脳は心臓に対して拍動数を高めて、即座にたくさんの血液を送り出すよう指令を出します。

また、血糖値が低くなりすぎた場合では、脳は神経伝達物質を分泌させ、肝臓を刺激し、保存されているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を放出させます。

人間の脳の高性能さは、どんなに精巧なコンピューターでも、まだかなわないそうです。

【3】でご紹介した以外にも、脳がよろこぶ生活習慣には、『手書きで気持ちを伝える』というのがあります。

「読む」「書く」という行為は、人間特有のものです。

日本の学校教育では、書いて学習する機会が多く、昔から書く訓練が十分になされてきましたが、いまやパソコンでの文書が主流の時代です。

私自身も毎日パソコンを使って仕事をしています。

しかし、それと同じくらい、手書きの文書も書きます。

学生の頃よりもペンのインクの減りが早いのでは?と思うくらい、ほぼ毎日手紙を書いています。

なぜならば、お客様からお寄せ頂いたご質問・ご相談に対してお手紙で回答を行っているからです。

俵万智さんの歌集「サラダ記念日」に、『手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛』と詠まれています。

愛の囁きも別れの言葉もメールで済ませられてしまう現代。

手紙は、相手がいないところで相手を考えます。

手紙へは相手を想う温かな気持ちが盛り込まれ、その時間とその瞬間の想いが色褪せることなく手紙として残ることが、手紙の醍醐味だと、私は思います。

電子メールや携帯電話がこれほどにも普及していれば、簡単に相手に用件を伝えることができ、便利ではありますが、読み書き機能(脳)を退化させないためにも、たまには、手書きの手紙なんて、いかがでしょうか。
【コラムの無断転載は禁止させていただいております】