健康コラム

no.48
テーマ:「味覚」
2011年2月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

冬には、美味しいものがたくさんあります。
寒ければ寒いほど本能的に食欲が増してしまうこの季節、美味しくてついつい食べ過ぎた・・・と反省する日も少なくありません。
しかし最近では、「何を食べても美味しくない」「味をあまり感じない」という味覚障害を訴える人も増えてきているそうです。
食事が日々の楽しみの一つだという人は多いと思いますが、満足に味わうことができなければ楽しさは半減してしまいますね。
また、美味しく感じられないせいで食事の量が減ってしまい、その結果体調を崩してしまう・・・なんてことも。
人生までもが“味気なく”なってしまう前に・・・皆さんの味覚は大丈夫ですか?
【1】味の種類と味覚のしくみ
味には「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「旨味」という5つの基本味があり、私たちが通常感じている食品の味の多くは、この中のどれか1つ、あるいは複数の味が組み合わさって形成されています。

舌の表面には、味蕾(みらい)という器官が多く存在します。

味蕾にある味細胞が食品の味の成分を感知し、その刺激が神経を介して脳に伝わることで、私たちは味を感じているのです。

しかし、この経路のどこかで異常が生じると、

◆味の感じ方が鈍くなる(味覚減退)
◆味を全く感じなくなる(味覚消失・無味症)
◆本来の味とは違う味に感じる(異味症)
◆何も食べていないのに苦味などを感じる(自発性異常味覚)

などの味覚障害が起こってしまいます。

味覚障害の原因には、亜鉛不足、薬剤の服用、口腔疾患、神経疾患、加齢、喫煙、口の乾き、ストレスなど、様々なことが考えられます。

亜鉛は、味細胞の新陳代謝(生まれ変わり)に必須となる栄養素であり、不足すると、本来活発に行われるはずの新陳代謝が滞り、古い細胞が残ってしまうため、味を感じる能力が低下してしまうのです。

※上記の症状や原因は一例です。
 気になる点があれば、お早めに専門の医療機関へご相談ください。
【2】老若の味覚事情
田舎のおばあちゃんの作ってくれる味噌汁がしょっぱかったり、お饅頭のあんこがものすご~~く甘かったという経験はありませんか?

個人差はありますが、味蕾の数は徐々に減ってくるため、年齢を重ねると、健康な人でもある程度の味覚の衰えが現れます。

また、高齢者では、食事量が減り消化吸収能力も落ちてきますので、亜鉛を十分に摂取しにくくなってしまいます。

そして、加齢と共に唾液の分泌量が低下し、口の中が乾燥することも、味覚の衰えを助長させる要因となります。

高齢者の味覚障害では、上記のような自然な老化現象が原因となる場合や、薬剤の服用や何らかの疾患が原因となる場合が多いのが特徴です。

以前は主に中高年以降の悩みとして知られてきた味覚障害ですが、最近では、若い世代やこどもにも増えてきています。

若年者の場合、偏った食生活による亜鉛不足が主な原因と考えられています。

コンビニ弁当やファストフード、インスタント食品などの食事では、糖分や脂肪分、塩分は過剰になる反面、肝心の亜鉛を摂取しにくいのです。

また、このような加工食品にはたくさんの食品添加物が使われていますが、食品添加物(特にフィチン酸やポリリン酸)は、亜鉛の吸収を妨げたり、排泄を促してしまうため、体内の亜鉛はさらに不足しやすくなります。

亜鉛は、飲酒や喫煙、ストレスなどによっても消耗されてしまいますし、若い女性の場合、無理なダイエットによる極端な食事量の減少も、亜鉛不足に拍車をかける一因として挙げられます。
【3】亜鉛の上手なとり方を知ろう
亜鉛は、体内に数グラムしか存在しない微量ミネラルの一つですが、味覚をはじめ、免疫、成長、皮膚の代謝、視力、生殖機能など、体の様々な働きに関わるとても大切な栄養素です。

私たちは、亜鉛を体内で作り出すことができません。

また、何日か分を一気にとり貯めておくこともできません。

つまり亜鉛は、日々の食事(食物)から摂取しなければならないのです。

ただし、現代では昔に比べて土壌のミネラルが減ってきているため、そこで育つ野菜や穀物などの食物に含まれるミネラルも減少してきており、通常の食事をしていても十分な摂取が難しいと言われています。

日々の食生活の中で、効率良く上手にとることができれば嬉しいですね。

亜鉛は、様々な食品に幅広く含まれる栄養素ですが、特に牡蠣をはじめ、牛肉、豚肉、うなぎ、ナッツ類、納豆などに多く含まれます。

もともと吸収されにくい性質を持つ亜鉛も、動物性たんぱく質(魚介・肉など)、ビタミンC(緑黄色野菜・果物など)、クエン酸(酢・梅干・柑橘類など)との相性は抜群。

今の時期、レモンを絞った牡蠣フライや酢牡蠣などはいかがでしょうか。

逆に、前項でもお話しましたが、加工食品に多く含まれるポリリン酸やフィチン酸などの食品添加物とは相性が悪いので注意しましょう。

フィチン酸は、未精製の穀物や豆類など天然の食品にも含まれています。

お茶などに含まれるタンニンやカフェイン、体に良いと言われているカルシウム、食物繊維、ポリフェノール類なども、過剰になると亜鉛の吸収を阻害したり、排泄を促してしまうことがあります。

また、食事だけでは亜鉛の十分な摂取が難しい場合、補助食品やサプリメントを利用するのも一つの方法ですが、亜鉛のみを単独で過剰に摂取してしまっては本末転倒です。

亜鉛などのミネラルには拮抗作用があるため、一つの栄養素が過剰になると他の栄養素がうまく働かなくなってしまい、その結果、体に不調が現れることもあるのです。

何事も、「過ぎたるは及ばざるが如し」。

様々な食品をバランス良くとるようにしましょう。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
今回は味覚についてお届けしましたが、味覚さえ正常であれば、100%美味しく感じられるかというと、必ずしもそうではありません。

ただ単に「味を感じる」だけではなく、もっと深く「味わう」ためには、味覚以外にも様々な要素が関係してくるのです。

◎視覚・・・色、盛り付け、彩りなど
◎聴覚・・・噛む音、(麺などを)すする音など
◎触覚・・・舌触り、歯触り、喉越し、噛み応えなど
◎嗅覚・・・香り、においなど

視覚、聴覚、触覚、嗅覚、そして味覚。

これら5つの感覚を「五感」と呼びます。

忙しい人や1人世帯の人では、仕事をしながら食べる、本を読みながら食べる、テレビを見ながら食べる、いわゆる「ながら食べ」で食事を済ませてしまう場合も多いようです。

たしかに、時間短縮にはなるかもしれませんが、これではせっかくの食事の味がわからないばかりか、満腹感を感じにくく食べ過ぎてしまったり、消化も悪くなりますので、健康面でもあまりおすすめできません。

休日や時間のあるときには、是非「五感」をフルに使って食事を楽しんでくださいね。
【コラムの無断転載は禁止させていただいております】