健康コラム

no.159
テーマ:「蘇」
2020年5月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

現在、SNSを中心に【蘇(そ)】という料理が注目されています。

みなさんは、この料理名をご存じでしょうか。
(私は初耳でした!)

発端は、学校の一斉休校により販路を失った牛乳を大量活用出来るレシピだと話題になり、味を試す人が相次いだ事によります。

調べてみると歴史が深く面白い料理でしたので、今回ご紹介します。
【1】蘇(そ)って何?
【蘇(そ)】とは、牛乳をゆっくり加熱し、たんぱく質を凝固させて作る、日本におけるチーズの元祖のような料理です。

味や食感を『和製チーズケーキ』と表現されている方もいらっしゃいます。

そもそも牛乳を飲むという習慣は、飛鳥時代には既に王族を始めとする支配者階級に広まっていました。

牛乳が庶民的なものとなったのは近代になってからですが、実は歴史は長く、古代より牛乳から各種の珍味が作られていたようです。

珍味の中でも特にポピュラーだったのが【蘇】です。

飛鳥時代や平安時代の文献などにも度々その名が記されており、歴史的にとても有名な料理だそうです。
【2】蘇の作り方
当時の詳しい作り方については、文献的な裏付けが難しく学者の中でも意見が分かれているのが実情ですが、約7時間、ゆっくり加熱していたとの情報が多く見られます。
気が遠くなりそうな時間ですよね…。

現在は調理器具も整っており、当時より早く作る事が可能です。
それでも2リットルの牛乳を使用すると2時間程度はかかるようですが…。

手始めに、まずは少ない量から作ってみるのもいいかもしれません。

作り方は至ってシンプルです!

【材料】

◎牛乳(お好みの量)
⇒文献には「乳を一斗煎じて、一升の蘇が得られる」と記載があり、1/10ほどの量になると考えられます。

【作り方】

1、牛乳が入る量の鍋を用意する。(テフロン加工が望ましい)

2、ヘラでゆっくりと混ぜながら、ほんのり茶色になり、ひと塊にまとめられるようになるまで加熱する。
※焦げ付かないように注意!

3、ラップに包み形を整え、冷蔵庫で冷やす。

ほんのり甘く、ほろほろとした食感に仕上がります。

ところで、なぜ長時間加熱すると茶色く変化するのでしょうか。

焦げているから?と思われる方も多いとは思いますが、これは【メイラード反応】という現象によるものです。

メイラード反応では、加熱した時に牛乳の乳糖とたんぱく質が化学反応を起こし、この時に【メラノイジン】という褐色色素が生じます。

さらに、茶色く色付くだけでなく、独特の風味が付与され、料理に旨味を加える反応でもあります。

蘇は、牛乳を美味しく頂く為の理にかなった調理法なのです!
【3】牛乳は栄養の宝庫
蘇の原材料の牛乳は各種栄養素がバランス良く含まれた“準完全栄養食品”とも呼ばれ、

●たんぱく質
●脂質
●炭水化物
●カルシウムなどのミネラル
●ビタミンA、B2

などをはじめとする様々な栄養素を豊富に含んでいます。

特にたんぱく質に関しては、アミノ酸スコア(※)が100に近く、卵に次いで良質なバランスで含まれる食品です。
※…たんぱく質の栄養価を表す数値

体内に吸収されたアミノ酸は、代謝されてエネルギー源になるほか、肝臓や細胞内で体のそれぞれの組織に必要なたんぱく質に再合成されます。

20種類のアミノ酸のうち、
トリプトファン
リジン
メチオニン
フェニルアラニン
スレオニン
バリン
ロイシン
イソロイシン
ヒスチジン

の9種類は、人間の体内で合成する事ができないため、必ず食物から摂取しなければなりません。

この9種類のアミノ酸を【必須アミノ酸】と言います。

必須アミノ酸のどれか一つでも摂取量が少ない場合、体内では最も少ない必須アミノ酸の量までしか利用されません。

したがって、アミノ酸スコアが100に近い良質なたんぱく質を摂る事が大切です。

牛乳は、必須アミノ酸をとてもバランス良く含み、コップ2杯分で1日に必要な必須アミノ酸量を摂取する事が可能です。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
蘇をさらに発酵させたものを【醍醐(だいご)】と言います。
『醍醐味』という言葉がありますが、その語源にもなっています。

味はモンゴルのシャルトスという乳製品に似ているとの事ですが…。
どのような味か気になるところです。

今のバリエーション豊かな食生活は、限られた食材や器具で新しい食材を生み出してきた先人の知恵のおかげなのだな、と改めて実感します。

私自身、実は牛乳が少し苦手なのですが、栄養補給や感染症に負けない体づくりの為にも、一度蘇作りにチャレンジしてみようかと思います!!
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