健康コラム

no.68
テーマ:「脂質」その1
2012年10月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

朝晩、急に肌寒くなりました。
日中と朝晩の気温差が激しいこの時季、体調管理には気をつけましょう。

さて、夏の暑さで落ちていた食欲も徐々に戻ってきて、秋の味覚、冬の味覚を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。

暑い夏の間は火を使う調理を控えていたご家庭でも、揚げものや炒めものが食卓に上る機会が増えてきているかもしれませんね。

何を食べてもおいしい。
食欲がとまらない。

しかし、いくら「食欲の秋」とはいえ、食べすぎて健康を損なってしまっては元も子もありません。

おいしく食べて健康を保つためにも、今月と来月は「脂質」についてお話します。
【1】脂質のはたらき
脂質は、炭水化物、たんぱく質と並ぶ3大栄養素の1つで、食品では主に油脂類に多く含まれています。

中性脂肪やコレステロールも、脂質の1種です。

脂質は、とりすぎると肥満や脂質異常症(高脂血症)の原因になりますが、本来は体内のさまざまな機能に関わる大切な栄養素です。

例えば、

◎エネルギー源となる
◎細胞膜の材料となる
◎ホルモンの材料となる
◎脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)の吸収を助ける
◎皮下脂肪として体温維持や内臓保護をする

などのはたらきがあります。

脂質は、普通に食事をとっていれば不足しにくいと考えられていて、むしろ現代の食生活では、とりすぎによる健康障害が問題視されています。

しかし、極端な食事制限を続けると、脂質が不足し、肌荒れや便秘などの症状が起こりやすくなることも知られています。
女性の場合は、月経トラブルの原因になることもあるようです。

健康を保つためにも、過剰になりすぎず、不足しすぎず、適量をとることが大切ですね。
【2】脂質の適量は?
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」(2010年版)(*1)の中で、脂質の摂取目標量は、

18~29歳:1日の摂取エネルギーの20%以上30%未満
30歳以上:1日の摂取エネルギーの20%以上25%未満

と設定されています。

これだけでは一体どのくらいの脂質をとればいいのかわかりにくいと思いますので、順を追って解説していきましょう。

例えば、身体活動レベルがふつう程度(*2)の場合、1日の推定エネルギー必要量は次のようになっています。

<男性>
18~29歳:2650kcal
30~49歳:2650kcal
50~69歳:2450kcal
70歳以上:2200kcal

<女性>
18~29歳:1950kcal
30~49歳:2000kcal
50~69歳:1950kcal
70歳以上:1700kcal

50歳女性を例にとって計算してみると、1950kcalの20~25%は、約390~488kcalですね。

つまり、約390~488kcal分のエネルギーを脂質からとりましょう、ということなのです。

脂質は1gが約9kcalですので、重さに換算すると約43~54gとなります。

これを植物油で換算すると、大さじ約3杯半~4杯半といったところでしょうか。

(植物油は、そのほぼ100%が脂質であり、大さじ1杯が約12gです。)

皆さんもご自分の脂質の適量を計算してみてください。

「意外と多い」「もっとたくさんとっても大丈夫かも?」と思われた人もいるかもしれません。

しかし、私たちが口にしている脂質は、植物油だけではありません。次項で詳しく見ていきましょう。


(*1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2010年版)

(*2)座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、
    あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む
【3】見えない脂質に気をつけよう
脂質には、主に油脂類に含まれる『見える脂質』と、さまざまな食品に含まれている『見えない脂質』があります。

『見える脂質』の油脂類とは、植物油・ラード・牛脂などです。
ほぼ100%が脂質のため、使用量や摂取量を把握しやすいのが特徴です。
また、バターやマヨネーズなどは、全体の7~8割の脂質を含んでいます。

それに対して『見えない脂質』は、肉・魚・卵・穀物・豆などの一般食品から加工食品やインスタント食品まで、幅広い食品に含まれていて、私たちが普段とっている脂質のうち7~8割はこちらだと言われています。

どのくらいの量が含まれているのか分かりにくいため、現代の脂質のとりすぎの盲点とも言えますね。

『見えない脂質』を比較的多く含む食品の一例を挙げてみます。

・乳製品(生クリームやチーズに多い)
・スナック菓子(ノンフライ菓子でも表面に油が吹きつけてある場合がある)
・洋菓子
・ラーメン(汁だけでなく麺にも脂質が含まれている)
・カレーやシチュー(市販のルウには意外と脂質が多い)
・ベーコンやサラミ
・ドレッシング
・ごまやナッツ類

などです。

皆さんも、無意識のうちに脂質をとりすぎていないか、普段の食生活を見直してみましょう。

さぁ、では毎日どのようにして脂質の量を調整すればいいのでしょうか。

脂質を多く含む食品のとり方に気をつけることはもちろんですが、その他にも以下の3つをおすすめします。

①油脂は計量して使いましょう
目分量だと、ついつい入れすぎてしまったり、どのくらいの量を使っているのかわからなくなってしまいます。
意識を高めるためにも、はかれる油脂ははかって使うようにしましょう。  
例)植物油 大さじ1杯=約12g=約108kcal

②栄養成分表示を確認しましょう
栄養成分表示には、「脂質」の項目があります。
『見えない脂質』を数値化したものですので、食品を選ぶときの参考にしましょう。

③1食・1日・1週間でそれぞれ調節しましょう
1食の中で、主菜は揚げもの、副菜は炒めものなんてことはありませんか?
食品そのものから摂取する『見えない脂質』も考慮すると、油脂を使った調理方法は1食1品までにおさえておきたいところです。

また、脂質の多い食事をとったら、その前後で調節をし、1日または1週間という単位で帳尻を合わせましょう。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
「油」と「脂」。
どちらも「あぶら」と読みますが、違いを知っていますか?

「油」は常温で液体のもの(植物油など)、「脂」は常温で固体のもの(牛脂など)を指します。

両方あわせて「油脂」と呼ばれるのですね。

今月は、脂質のとり方についてお話しました。
来月は、油脂の種類とそれぞれの特徴についてお届けします。

※今回ご紹介したエネルギーや脂質の摂取に関する各指標・各数値は、 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)に基づくものですが、 必ずしも全ての人に当てはまるとは限りません。詳しくは専門の機関へご相談ください。
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