健康コラム

no.127
テーマ:「重陽の節句」
2017年9月号
※内容は掲載当時の情報です。何卒ご了承下さい。

今日から9月、暦の上ではもう秋です。
しかし、まだまだ暑い日が続いていますね。
みなさん、いかがお過ごしでしょうか。

さて、9月のイベントといえば、“敬老の日”や“秋のお彼岸”が有名ですが、五節句の1つ“重陽の節句”もあります。
ご存知でしたか。

「ちょうよう」と読み、9月9日のことを指します。

桃の節句や端午の節句などと比べると、現代では、あまり有名ではないかと思います。

知らなかったという方!
今から知っても、まだ9日には間に合いますので、今年は“重陽の節句”を楽しんでみませんか。

では、“重陽の節句”についてお話しします。
【1】重陽の節句とは?
重陽の節句とは、五節句(人日・上巳・端午・七夕・重陽)の1つです。

古来、奇数は縁起の良い陽数、偶数は縁起の悪い陰数と考えられていました。
その奇数が連なる日を祝ったことが始まりで、めでたい反面、悪いことにも転じやすいと考え、お祝いとともに厄払いもしていました。

なかでも一番大きな陽数が重なる9月9日を、陽が重なることから、“重陽の節句”と定め、不老長寿や繁栄を願う行事をしてきました。

この行事は、中国から伝わったもので、平安時代に宮中行事として取り入れられました。
当時は、中国から伝来したばかりの菊を眺めながら宴を催し、菊を用いて厄払いや長寿祈願をしていました(菊酒や着せ綿※)。

※菊の花に綿をかぶせておき、翌朝、菊の露や香りのついた綿で身体を清めることを言う。行うことで、長生き出来るとされています。

この行事が時代とともに民衆にも広がり、江戸時代には、五節句の1つになりました。
民衆に広がる頃には、収穫祭の意味合いも込めた行事となり、菊以外にも、秋に収穫される「栗」や「茄子」も食べるようになったと言われています。

また、五節句は、行事と関わる植物の名前で呼ばれることがあり、
1月7日の人日(じんじつ)の節句は“七草の節句”
3月3日の上巳(じょうし)の節句は“桃の節句”
5月5日の端午の節句は“菖蒲の節句”
7月7日の七夕の節句は“笹の節句”
となります。

そして、重陽の節句は、“菊の節句”とも呼ばれ、「菊」が主役の節句です。
※一部“栗の節句”とも言われます。

東北地方の一部では、食用菊を日常的に食べる文化がありますが、多くの人は、お造りの横にのっている菊しか見たことがなく、菊を毎年食べる方は、なかなかいらっしゃらないと思いますので、次は「菊」についてみていきましょう。

※節句に関してはこちらもご参照ください。
【2】重陽の節句に食べるものって?
先ほど、「菊」が主役とお話ししましたが、食べ物も基本的には「菊」が主役です。

菊は、古来より薬草としても用いられてきており、現代でも漢方では、重要な食材として扱われています。

熱を鎮めたり、炎症を抑えたりする働きがあり、喉の腫れや痛みを伴う風邪や頭痛に効くとされています。
また、目の疲れも癒す作用があり、眼精疲労や充血、ドライアイなど目の諸症状を和らげます。
さらに、解毒の働きもあり、吹き出物や腫れ物がある時にもよいと言われています。

ビタミンやアミノ酸、ポリフェノールなど様々なものを含んでいることから、上記のような効能をもつと考えられています。
また、香りの成分のリラックス効果から、免疫機能の維持にもつながると言われます。


重陽の節句では、食用菊(菊花)を使ったものを食べます。
菊酒が主となりますが、特に決まりはないようです。


◎菊酒
日本酒に菊花をちらして、菊の香りを楽しむ。
 

◎菊花のお浸し
好みの材料(ほうれん草や小松菜など)とお浸しにしたり、菊花のみお浸しにしてもよい。
(味付けは、だし醤油や醤油、ポン酢などお好みで。)
 

◎その他、味噌汁やおすましに浮かべたり…
下処理をせず花のまま天ぷらにしたり…様々な楽しみ方があるようです。


以下の菊花の下処理もご参考ください。

~菊花の下処理~
①花びらをちぎり、たっぷりのお湯に酢(適量)を入れ、さっと軽く茹でる。
 
②茹でたものを水にとり、何度か水を変えながら冷やし、冷えたら水を切る。

③お好みの料理に使用する。
量が多い場合には、水を切った後、小分けにして冷凍してもよい。


~ポイント~
・酢を入れることで、色がきれいになる。
・茹ですぎると食感がなくなるので、さっと茹でる。
・苦みが苦手な方は、花びらを外からちぎっていき、中心の短い花びらは食べないようにする。
  

また、先ほども少しお話ししましたが、栗(栗ごはん)や茄子(焼き茄子や茄子の煮びたし)も重陽の節句に食べられています。

菊花は、販売場所や季節が限られており、なかなかどこでも買うことが出来るものではありませんが、インターネットや百貨店の野菜売り場などで販売されていることもありますので、一度食べてみるのはいかがでしょうか。

思いのほか苦みもなく、香りも強すぎないので、とても食べやすいですよ。

ちなみに私は、酢の物や、お味噌汁に入れて食べました(黄色の菊花)。
彩りが良いので、いつもの料理も華やかに感じられました。
【3】後の雛(のちのひな)
“後の雛”は、江戸時代に重陽の節句に伴い、行われていました。
その後、時代の移り変わりとともに、その風習はなくなっていましたが、現在、“大人の雛祭り”として注目を集め始めています。

後の雛とは、桃の節句で飾った雛人形を、半年後の重陽の節句でも飾り、健康や長寿、厄除けなどを願った風習です。

※「後」は2つ目のという意味
例:後の彼岸(秋の彼岸のこと)

この行事には、雛人形を1年間しまったままにすることなく、虫干しの意味も兼ねて、半年に1回は飾るといった昔の人の知恵も込められています。

雛人形は、女性の幸せの象徴であり、人の分身として災厄を引き受ける役目もあると言われます。
感謝と祈りを込めて大切に扱うことで、長持ちさせ、それが長生きにも通じると考えられています。

また、桃の節句との大きな違いは、桃の花でなく、菊の花が添えられるところです。

花の違いや、後の(子供の次の)というところから、大人の雛祭りと言われているようです。

現在では、重陽の節句に向けた雛人形も販売されており、大人の方が自分用に買われることもあるようです。

今年は、雛人形を飾り、菊料理や菊酒を味わうのはどうでしょうか。
◇◆管理栄養士の独り言◇◆
恥ずかしながら、私も数年前まで“重陽の節句”について何も知りませんでした。
管理栄養士という職業柄、昔の行事や節句などに触れる機会も多く、その時に、自分の勉強不足を痛感しました。

普通に暮らしていると、以前の私のように、日本の古来の行事などについて知らない方も多いと思い、今回の題材に選びました。

さて、重陽の節句についてお話ししてきましたが、なぜ「菊」が長寿の象徴になったのかについてお話ししていませんでしたよね。
これには“菊慈童(きくじどう)”のお話が関係しています。

「中国、周の穆王(ぼくおう)の時代。
王に仕える慈童という名の少年がいました。

この少年のことを王は可愛がっていましたが、ある時、王の枕をまたいだ罪で、山奥に流されてしまいます。
 
この少年のことをかわいそうに思った王は、仏様から授かった教えのうち2句を少年に授けます。
少年は、その句を忘れないようにと菊の葉に書き留めました。

句を書いた菊の葉に露が溜まり、その露が川に落ち、川の水が天の霊薬になりました。

その水のおかげで、下流の住民は病気もせず、長寿になりました。
もちろん、慈童も、その川の水を飲んでいたので、少年(童の姿)のまま、仙人になりました。

700~800年ほどのち、時の王、魏の文帝の使者が、不老長寿の薬(川の水)があるという噂を聞き、確かめにきました。

その使者が、上流へ確かめに行くと、菊が咲いている中に、童の姿の慈童を見つけます。

慈童は、経緯を話し、穆王から授かった句を文帝に託し、文帝に仕えることとなりました。
また、盃に菊花を添え、寿命を延ばす術を授け、文帝は菊の宴を催し、千年・万年の寿を祝いました。」

この宴が重陽の節句の始まりとされています。

※簡単に話をまとめたので、気になる方は“菊慈童”について詳しく調べてみてください。

このようなお話に基づき、始まったとされる“重陽の節句”。
時代とともに形を変えながらも、現代まで続いてきた行事ですので、私たちも今年こそはお祝いしてみませんか。

菊は、目で楽しむだけでなく、「味よし」「栄養もよし」と、優れたものですので、節句(着せ綿や後の雛)はしないという方も、一度食べてみる価値はありますよ。
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